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仙台高等裁判所 昭和35年(ラ)107号 決定

抗告人 かわだ既製服株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。

論旨は要するに、破産法第一五五条第一項による保全処分が利害関係人の申請によつてなされる場合は、常に保証を立てさせるべきものではない。従つて原裁判所が申請人である抗告人に金一〇〇、〇〇〇円の保証を立てるべきことを命じたのは違法である。よつて右保証を立てないからといつて抗告人の本件仮差押命令申請を却下した原決定もまた違法であるというのである。

破産法第一五五条第一項による保全処分が破産財団たるべき財産を保全するため、すなわち総債権者のためになされる一般執行である点において、個別執行の保全を目的とする民事訴訟法による仮差押、仮処分と性質を異にするものであることは所論のとおりである。

しかしながら破産法による右保全処分においても、その申請人は債権、破産原因及びその保全の必要性について疎明すべきであるが、それはあくまでも疎明であるから、この保全処分によつて債務者らが不当な損害を蒙る蓋然性がないとはいえない。従つてこの場合右疎明のいかんによつてその損害を担保するための保証を立てさせる必要があるというべきである。よつて裁判所は諸般の事情から保証を立てさせる必要があると認めたときは一般の保全処分に関する規定を準用して保証を立てさせるのが相当である。もつともこの保全処分によつて利益を受けるのは申請人個人ではなく総債権者であり、また保全される債権額も不明であることが多いから、保証を立てることが公平に反するとか、その額算定が困難であるという考え方もないではないが、積極的に保全処分の発動を求める申請人に債務者らが受けるおそれのある損害をあらかじめ保証させることは必しも不当ではないし、保証の額算定の困難も裁判所が事情に応じてその自由裁量をもつて克服し得ないものではないから、この場合常に保証を立てさせるべきではないとする論旨の論拠とはなり得ない。

それなら、原裁判所が、本件仮差押命令申請について申請人たる抗告人に対し金一〇〇、〇〇〇円の保証の供託を命じたのは相当であるから、抗告人において所定期間内に右供託をしなかつた以上、これを理由に本件申請を却下したとて、原決定には所論のような違法はないというべきである。

よつて民事訴訟法第四一四条、第三八四条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 村上武 上野正秋 鍬守正一)

抗告の理由

一、原決定は抗告人が債権者となり相手方を債務者とする青森地方裁判所昭和三五年(フ)第六号破産申立事件に於て、此の破産財団保全の為め破産法第一五五条に基き債務者の財産を保全する為め申立てた仮差押命令申請に対し、原裁判所は金十万円の保証を立てるべき旨命令し之につき債権者がその命令の期間内に保証を立てざりし理由の下に此の仮差押申請を却下されたものであります。

二、然しながら、破産法第一五五条の仮差押又は仮処分の命令申請は破産宣告前将来の破産財団を保全する為め為さるる特殊の保全処分であつて、同条には何等債権者に保証を立てるべき旨の規定なく又一方此の申立は総破産債権者の為めに為さるるものであつて申立債権者の為めのみに対し為さるるものではありません。従つて保全さるべき債権額不明であるので保証の標準も立て得ず、且つ職権でも為し得る決定であります。即ち一つの破産手続上の公安処分であつて民訴法の仮差押仮処分とは其の性質を異にするものと思料します。

故に此の申請を認容した決定に対しては相手方債務者は民訴法上の異議の申立を為し得ず、唯破産法第一五五条第二項の裁判所の取消又は変更の職権発動を促がし得るのみであります。

三、然るに原裁判所が此の仮差押を民訴法上の仮差押申請と同一視し債権者に保証を立てるべき旨命令したのは違法であり従つて保証を立てなかつたからと言つて此の申請を却下した原決定は破産法第一五五条を誤解したものと思料します。

四、仍つて原裁判所に於ては再度の御考案により原決定を御取消の上更らに適当の御裁判ありたく抗告に及んだ次第であります。

五、因に申上げますが東京の裁判所に於ては此の破産法上の仮差押に保証を命じた事件はない由であります。

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